「ルサンチマン」こそ花沢健吾さんの最高傑作ではないか

ついこないだ正月を楽しんでいたと思ったら、もう1月末。。。
例年ながら1月は矢のごとし過ぎ去ってしまいます。

さて、私は、正月は適当に重くない小説などを読むことが多いですが、今年の正月はむちゃくちゃおもしろい漫画に出合ったので紹介します。
下手な小説より遥かに面白く、漫画に抵抗のない方には本当にお薦めです。

それは、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「アイアムアヒーロー」の著者、花沢健吾さんの初期の作品「ルサンチマン」です。

ルサンチマン 上 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ルサンチマン 上 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ルサンチマン 下 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ルサンチマン 下 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

舞台は2015年の東京、主人公は30歳手前のデブ・ハゲで人付き合いの苦手な男性。いわゆる女性から生理的に嫌われるタイプ。
ある日、彼は、現実での女性との出会いを諦め、流行する最先端オンラインゲーム上の「仮想彼女」との恋愛に没頭していきます。
「仮想彼女」は電気屋街でソフトウェアとして販売されており、プレイヤーはパソコンにそのソフトウェアをインストールして、専用のグローブ、ヘッドギアを装着し、ゲームの世界に入ります。
そのゲームの世界、「仮想世界」(※セカンドライフに近いイメージ)では、自分の外見を作り変えることができ、「仮想彼女」はデフォルトで自分のことを好きでいてくれるので、各プレーヤーは思い通りの恋愛と楽しみます(別売りボディースーツ等買えばセックスも可)。

そして、主人公も同じ動機で「仮想世界」に入り、仮想彼女との恋愛を楽しもうとしたところ、その彼女が普通とは違い。。。。
と、何かよくありそうなストーリーですが、話が進むにつれてストーリーの巧拙さに惹きこまれます。

「仮想世界」は、美少女、アクション、RPG等あらゆる種類のゲーマーが都市を形成し共存する世界。中世のように対立する勢力もあり戦争もあります。実際、第二次「仮想」世界大戦も起こっており、各勢力はパワーバランスで安定と保っています。

実は、主人公の「仮想彼女」は、その「仮想世界」を作り上げた人工知能システムと重大な関係があり、彼女を通じて「仮想世界」を支配しようとする勢力に狙われ、その関係で主人公もゴタゴタに巻き込まれていきます。
一方、主人公は、仮想世界にのめり込みつつも、現実世界で彼のダメな部分を受け入れる母性愛を持つ女性が現れてしまい、それが主人公と「仮想彼女」との関係を危うくし、、、と話がどんどん複雑になっていきます。

そんなストーリーにさらに厚みを持たせているのが、緻密に作りこまれた主人公以外のサイドストーリーです。
主人公の友人で「仮想世界」での生活に命まで捧げる覚悟の越後、「仮想世界」を作り上げる人工知能を開発した神崎、「仮想世界」を通じて現実世界のネットワークを支配し核兵器で人類滅亡を企む江崎、現実世界の主人公のよさを認める女性長尾、ゲームに没頭していく主人公をあくまで優しく見守るお母さん等。
実は、それぞれの登場人物に悲しい過去や事情があり、話が進むごとに一つ一つ明らかになっていきます。それらサイドストーリーが主人公のメインストーリーに厚みを持たせ、惹きこまれます。

それにしても、主人公が本当にダサくてキモい。本当にリアルに生理的に嫌われるタイプです。
しかし、だからこそ、作中で彼がたまにする英雄的行動や感情の発露が際立つ。。。
最後のシーンまで、彼を男としてカッコいい!と思うことはないのですが、彼の涙には、心揺さぶられました。
お勧めです!

ちなみに、花沢健吾さんは、自分の私生活の実体験をおおいに作品に取り入れられており、各画面のディテールのリアリティはそこからくるようです。詳しくはこの本を参照してください。

人間コク宝 まんが道

人間コク宝 まんが道