松村劭『戦術と指揮』に見るビジネスへの応用性

軍事評論家の故・松村劭(つとむ)さんは、古代から近代までの戦争の戦略を分析・解説した著作を多く書かれていますが、ビジネスにおける戦い方を考える時も示唆に富む記述が多かったりします。

この著書は1,000円もしないPHP文庫なのですが、冒頭で「戦いに勝つための9つの原則」が考えさせられるので紹介します。この原則は、嘗て、第一次世界大戦時の英国のフラー少将が唱えた「戦争の9つの原則」に松本さんがご自分でアレンジを加えたもののようです。

1「目標の原則」
・戦いを通じて目標を見失いこと。

2「統一の原則」
・戦いの指揮官は一人に絞ること。

3「主導の原則」
・先動、先制して主導権を握ること。そして主導権を握ったら絶対それを離さないこと。

4「集中の原則」
・敵の弱点に対して、自分の戦闘力が敵より勝るように戦力を集中すること。そのためにまず敵を分散させてこと。そして敵を分散させるため、まず自分の方が分散すること。「我が軍の分散→敵の分散→我が軍の集中」。よって、集中速度を早めることが重要。

5「奇襲の原則」
愚かでない敵との戦いにおいて、狙った場所と時機に相手より優位であることはむつかしい。よって、奇襲の要素がなければ、重要な場面での勝利はない。奇襲成功の条件は、予期されないこと、対応のヒマを与えないこと。

6「機動の原則」
速度と策略によって敵を窮地におとしいれ、敵指揮官の精神のバランスを破壊すること。

7「経済の原則」
遊ばせている戦力がないこと。

8「簡明の原則」
戦いの目的・目標が明快で、作戦方針のコンセプトが奇抜・大胆・明快であること。

9「警戒の原則」
いかなる場合でも油断大敵であること。

ざっとみて、私が特に着目したのは、「奇襲の原則」です。
この原則だけ、求められる資質が全然違うなと。

その他の原則は、大枠でいうと「規律」的な面が強く、ある意味きちんと情報を集めてきちんと自軍を統制すれば、きちんとできるような印象があります(もちろん実際はそう簡単にはいかないでしょうが。。)。

ただ、「奇襲の原則」に関しては、何が奇襲になるかなんて、そう簡単にわかるものでもないし、ちょっと情報集めたら誰でも思いつくくらいの作戦なんて、きっと全然奇襲にならないだろうなと思います。
本当に常人が思いつかないような作戦を考える能力は、極めて属人的。つまり、そういうぶっ飛んだ考え方ができる創造的な天才が最低一人はいるかいないのか、がポイントなのだと思います。
つまり、この原則だけ「規律」とはある意味対局の「創造性」が問われるわけです。

私は、ビジネスの世界にもこれらの原則がほぼほぼ丸々適用できると思います。
そして、「奇襲の原則」も適用され、創造性を持った天才がビジネスの世界でも必要かと思います。
例えば、小規模企業で新規開拓営業をしていると想像してください。例えばターゲットをする顧客に適切に約束をとって、適切の訪問し、適切に提案をする。大切なことです。しかし、営業を受ける企業側としては、あなたの営業が、まぁ「よくある新規営業」であり、特に目新しいがあるわけではないことは多々あるわけです。
その時、「奇襲の原則」で相手に揺さぶりをかけることが有効だったりするのですが、何が奇襲になりるか、想像できますか?これ、完全にセンスの世界ですよね。恐らく「奇襲の原則」以外を完璧に適用できる方も、案外この「奇襲の原則」ができなくて躓いたり、まったく話が進まないことって結構あると思います。

「奇襲の原則」とそれ以外の原則とでは、求められる資質が正反対。そして、それらの資質を持った人材がそれぞれ必要。上に立つ人間がそのあたりの塩梅を知る必要があるのかも知れません。