平易な文章に理解の深さを問われる一冊か。野口悠紀雄著『「超」説得法』

何年も読書生活を続けていると、「この人が出した本はとりあえず読もう」という著者の方が何名もできます。「この人が新しく伝えたいことがあるなら、何はともあれまず聞いてみよう。何かあるはずだ」と思わせてくれる方です。例えば、その人が「効率的な便所紙の使い方」という本を出しても、私はその人の新刊は絶対に買います。
経済学者・野口悠紀雄さんはそのような私が信頼をおく著者の一人です。

そして野口さんが最近新刊を出されたので、また即読んだのですが、面白かったです。

「超」説得法 一撃で仕留めよ

「超」説得法 一撃で仕留めよ

この本はその名の通り、説得に関する方法論をまとめたものですが、多くのビジネス書のように自分の経験談を中心にまとめられたものでありません。聖書やシェークスピアの作品、また著名な政治家のスピーチ等、時間による淘汰を経た歴史的資料をもとに、自分の解釈を加えながら方法論を紡いでいく、という形になっています。そもそも、必ずしも実話でない歴史的文献から教訓を引き出そうとする発想も斬新ですし、付与される解釈が一般的なものと離れている、場合によっては真逆だったりする点に新しい気づきを得られます。そして、それらすべてが、平易で論理的な文章で語られているので、引き込まれていきます。

野口さんは著名な経済学者ですが、森羅万象に対するエッセイ『「超」整理日誌』もすこぶる面白く、私は学生時代に貪り読んだものです。

「超」整理日誌 (新潮文庫)

「超」整理日誌 (新潮文庫)

野口さんの著書の特徴は、ぱっと思い浮かぶ範囲でもこのくらいあります。
1.発想がオリジナル
2.視野が広い(時間的広がり+場所的広がり)
3.言動の一貫性(明快に自説を言い切ってしまう)
4.読み手に対する精密な工夫

特に、日本経済に関する著書でも3の通り、明快に自説を言いきってしまうので、色んな批判に晒されている場合も多いようです。
しかし、私はこの「言い切る」という部分に野口さんの男気を感じており、仮に野口さんの見解に間違えてある部分があったとしても、それをきっかけに次の議論が生まれるわけで、なんというか、野口さんの論壇における偉大さにはまったく翳りを帯びさせないと思っています。