松井博『僕がアップルで学んだこと』はビジネススクールより役に立つのでは

元アップルのシニアマネージャーの松井博さんのブログの記事をいくつか紹介していますが、松井さんはブログの記事をきっかけとして、書籍も出版されています。最近も新著を上梓されたのですが、今回はその前の著書『僕がアップルで学んだこと』を紹介します。

私は個人的にアップルの実態とスティーブ・ジョブズの実績について、この松井さんのご見解が一番正鵠を射ていると考えています。

松井さんによると、スティーブ・ジョブズの功績は、働く「環境」を徹底的に変えたこととのことです。
スティーブ・ジョブズ復帰以前は、「不良が跋扈して荒れている底辺高校」のようなひどい状況だったとのことです。会社の方針を知っているものは誰をおらず、各自好き勝手なプロジェクトを作って実行無責任体質で、産まれる商品の品質は最悪。社員同士のコミュニケーションもなく、モラルも落ちるところまで落ちていたとのこと。
そこで、ギルバート・アメリオが始めた社内改革を引き続く形で暫定CEOに就任したスティージョブズは、経営陣をほぼすべてNeXTから連れてきた参謀達に交代させ、プロジェクト数を徹底機に減らし、今すぐ役に立つテクノロジー以外は抹消。喫煙制度、ペットの社内持ち込み、勤労5年以上の人に与えられる1ヶ月の有給制度もすべて廃止。一気に社内の環境を変え、誰が支配者か明示しました。ジョブズに社員食堂で話かけられた時、正確に質問に答えられないとクビになるという伝説(?)が生まれたのもこの頃のようです。
このようにジョブズは、周りに「畏怖」を抱かせることを通じて、アップルの組織としての業務遂行能力を最大限まで高めていったわけです。

ビジネスにおいて、イノベイティブな商品開発も重要でしょうが、この組織としての業務遂行能力をマックスにまで高めることの重要さというのはあまり指摘されていないと思います。
別にジョブズの方法だけがベストとは思いませんが、組織的に業務遂行能力を高める施策を追求することは、事業の成否を握るものである、そんなことを再認識させられた一冊でした。