『人間仮免中』は『レ・ミゼラブル』を越える人間活劇

今、映画で流行りの『レ・ミゼラブル』ですが、以前、私は小説で前半を読んだだけですが、正直そんなに感動しませんでした。
http://www.lesmiserables-movie.jp/

レ・ミゼラブル (1) (新潮文庫)

レ・ミゼラブル (1) (新潮文庫)

思うに、あの話が人の心を揺るがしたのは、あの小説が書かれた19世紀中頃当時、揺れ動く時代、道徳や人権は制度的に担保されず、殺伐とした雰囲気が残る社会の中だからこそ、マドレーヌ、つまりジャン・バルジャンの行動が、当時の人々の心に刺さったのでは?と勝手に思っています。よって、我々現代人からすれば、「まぁええ話やな」くらいで、共感できる部分は本当に限られているんじゃないかと。好きな人には怒られそうですが笑(※もちろんあの時代の社会の雰囲気を詳細に描いたという意味で歴史資料的価値は高いと思います)。

一方、この週末たまたま手にとった漫画、卯月妙子著『人間仮免中』は、「人間活劇」という意味では、レ・ミゼラブルの2万倍の衝撃を受けました。統合失調症の著者の生活のディテールを描写する漫画(絵もはっきり言って下手)なのですが、彼女を取り巻く周りの人々の愛ある言葉と行動、そして、壮絶な人生を歩む著者が生きる力を失わない姿に、強烈な衝撃を受けました。

人間仮免中

人間仮免中

本書では、仕事、家族、恋愛、結婚、離婚、貧困、精神病、自殺、壮年期の生き方等、我々が直面し得る現代的なテーマが凝縮されています。そういったテーマ、というか困難に対して、卯月さんと、卯月さんのご主人となった石原さん(通称:ボビー)が、お互いに対する無私の愛を貫く姿に心を鷲掴みにされる気分でした。
各場面の二人の行動をみて「自分はこの行動をとれるか?」と自問自答してしまいました。

凄まじい話の展開なのですが、やはり実体験なので、ディテールにリアリティが宿っています。そして、ディテールにリアリティが宿る限り、絵がうまくなくても迫りくるストーリーが作れるのだな、、と思いました。というか、このデフォルメされた絵だからこそ、この強い衝撃なのか。。。正直よくわかりません。

私は、中盤で、それまでのシーンから急に卯月さんが歩道橋を登っていく画面に切り替わる瞬間を思い出すと背筋が凍り、後半で同じ歩道橋に手を合わせるところを思い出すと、強烈に胸が締め付けられます。
自分はここまで強くなれるだろうか。。。

今を生きる人には、この「人間活劇」は必読と思います。
ただ、あまり落ち込んでいる時に読まない方がいいかもね笑