書評を始めるにあたり

 本を読むことは、旅行に近いと思う。
 文字を目で追いながら、頭の中で自分が行ったことのない場所、また決して行けることのない過去の場所に想像上で旅行する。その旅行の中で、自分が今まで想像もしていなかった形式で生活する人に出会い、考え方の違いに触れ、好奇心に強い刺激を受ける。
 実際の旅行は、社会人であれば特に、時間的、経済的事情により制約がかかる場合が多いし、”過去への旅”等、完全に不可能な旅行も多い。
 しかし、本による夢想の旅は無限だ。それこそ東京都内のコーヒーショップにいながら、コンゴの密林の中に想いを馳せることができる。ほんの数千円とコーヒー代のみで味わえる最高の贅沢だと思う。
 しかも、本の場合、訪れた場所の歴史的背景の詳細や、グローバルな視点から見たその場所の意味等、旅を立体的に楽しむための情報に溢れている。これに、関連映画や、Wikipediaを始めとする充実し続けるインターネット上の情報(特に画像、動画)を利用すれば、夢想の旅がさらに刺激的なものになる(その効率的な利用法についても考えていきたい)。

 このブログ上に連載する書評では、私の本を通じた旅の軌跡を紹介し、その旅行体験の共有、そして可能な限り読者の知的好奇心を刺激するように努めたいと思う。好奇心というものは、満たされれば満たされるほど、さらに増大するものだ。この書評を通じて関連知識を交換し、社会的、経済的実用性がまったくない話題で、むちゃくちゃ盛り上がれれば、と考えている。

 ちなみに、私の興味の対象は、めちゃくちゃである。
 好奇心を放し飼いにしたまま、本当に脈絡もなく、どんな本でも濫読、多読する。
 例えば、初回はチョコレートに関するノンフィクションを紹介するが、この本を読むきっかけは、たまたま私が私的事情で大好物の甘いものを3週間断たなければならないことがあり、完全にその腹いせである(ちなみに一年前に同じく食事制限をした時期があったのだが、その時は辻料理専門学校創立者辻静雄氏の著作で腹いせした)。
 そんなくだらないことで読み始めた本であったが、チョコレートの生産現場を知ることを通じて、アフリカ諸国経済の現状、特に縮小しない人々の貧困に興味が移り、そして関連書籍を何冊が読んでいるうちに、アフリカ経済を蝕む内戦に興味が移り、そしてシエラレオネリベリアの少年兵の存在、さらにその内戦で主に使用される”悪魔の兵器”と呼ばれるAK47という自動小銃の構造、そしてその武器が内戦地域に流通するに至った冷戦時からの歴史的経緯に、と次々と興味が移った。
 アフリカ諸国の歴史的経緯を探るうちに、第二次世界大戦後もアフリカでは先進国を巻き込んだ群雄割拠の時代が続き、内戦、独立戦争侵略戦争等が多発していたことに驚き、当時の冷戦構造の中で、先進国の行動が、アフリカ諸国に与えた影響に興味が移った。多くの先進国政府は、自国の利益と東西関係における味方国支援のため、アフリカ諸国の独裁者を支援した。また先進国出身のプロの傭兵がアフリカ各地での戦争に重要な役割を果たすことが多かったのである。
 その先進国出身のプロの傭兵の活躍を描いたのが、F・フォーサイスの「戦争の犬たち」である。この話は、フィクションであり、西アフリカにある「ザンガロ」という実際には存在しない国を支配する独裁者を、傭兵と若干の現地兵合計10数人で倒し、クーデターを試みるという物語なのだが、この「ザンガロ」は、明らかに実在する国、赤道ギニアをモデルにしているのは通説である。実際、似たようなクーデターの試み…結果は少し違うのだが、現実にあったらしく興味深い。これも書評の中で詳しく紹介したい。
 ちなみに、この「戦争の犬たち」の冒頭は、それら傭兵達がアフリカの”ある国”の内戦から逃れて飛行機で脱出するところから始まるが、その内戦とは1970年に実際に起きたナイジェリアの内戦、”ビアフラ内戦”をモデルしていると考えられる。ナイジェリアにはビアフラという地域があり、1967年から1970年に滅びるまで、実際に存在した一つの共和国として独立国であった。今は当然地図にも載っていない国であり、”ビアフラ”の名前すら、一般にはあまり知られていないが、当時、その内戦は苛烈を極めたようだ。
 そのビアフラにつては関連書籍も少なく情報収集に苦戦したが、新古書含めて3冊ほど集まったのでこれから読み始めるのだが、楽しみである。勿論、当該書評で紹介したい。 

 そんな歴史的背景はさておき、一方アフリカは、広大で過酷な自然に囲まれた動物の楽園という一面がある。日本人である私が想像もつかないような面白い自然の一面がアフリカにはまだまだあるはずと思い、上記関連書籍を読み進めるのと平行して、もっと軽いタッチのアフリカ旅行記を読み進めている。
 これは、コンゴのジャングル奥地にあるテレ湖に生存するといわれる恐竜の子孫「モケレ・ムベンベ」を探しに行くという、完全に眉唾物っぽい話なのだが、ノンフィクションで、さらに旅の道中の描写が極めてリアルなので、楽しく読み進めている。この本も書評で紹介するつもりである。

 このように興味の対象は、チョコレートから始まって、ビアフラまで行き着いた。何の脈絡もない。むちゃくちゃである。ちなみに今、アフリカ関連の書籍が多いのもまったくの偶然で、その前は中東問題であったし、その前は地球温暖化であったし、エリザベス一世だった時もある。

 せっかく何の制約もない空想旅行なので、このような感じで私の好奇心を放置して、面白いと思った本のみ紹介できればと思っている。
 私が面白いと思ったことに共感した方、また私が気づいていない面白さを紹介書籍に発見した方、他に面白い関連書籍を見つけた方、特に他意はないがなんだか書きたくなった方、是非コメントいただきたい。

 それでは、旅を始めよう。