第5回:語学学習法について〜le Dîner de cons〜

下文は、私がフランス留学時代に書いた語学勉強法についての文章です。10年以上前の文章なので、細部に関して考え方を変えたところはありますが、大枠現在もこのような考え方を支持しています。ご参考まで。山田義久 2012年1月 

よく外国語を学ぶ教材として映画がありますが、はたして本当に映画が適当な教材 かと聞かれれば、僕の経験の上ではノーです。以前le fabuleux destin d'Amelie という映画を見に行ったのですが、不肖、フランスに滞在三年以上、にも関わらず、 ほとんどわかりませんでした。特に笑いどころ、 おそらく何か粋なことを言っていたのでしょうが、 そこだけフランス語じゃなくなったような印象を受けました。

 しかし僕はその点について楽観的に考えていて、「別にわからなければわからない」 でいいと思っています。僕は学生(大学三年生)として、ある程度日常生活において 困らない上で、本を読めて、授業を聞いて、書けて、自分の言いたいことがいえ、 発表できる程度のフランス語があればよし、と考えているからです。 映画で使われている言葉はかなりくだけた表現や、「粋な」表現が多いです。 それをすべて習得するとなると、それにかかる時間は膨大である割に、 それに対する見返りが僕にとってあまり多くないのではない、と考えています。 それらの表現がわからなかったとしても、le fabuleux destin d'Amelieが意味不明でも、 僕の学生生活に特に支障はありません。

 しか〜し、そんな僕でも教材として一つ他人に薦められる映画があります。それは le Dîner de cons(邦題:「奇人たちの晩餐会」)です。 理由はいくつかあるのですが、順を追って説明していきます。

奇人たちの晩餐会 リマスター版 [DVD]

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1. まず、ただ単純に面白いということです。フランス語でこういういい方をすると 面白くなる、という「笑いの壺」の発見があります。

2. 基本的に日常生活の描写ばかりで(宇宙とか猿の惑星とかない)、そこで使われ ている表現も、そのまま我々の生活に応用できるものが多いです。使われている単語 自体も難しいものはそんなに多くありません。会話の進め方、電話の受け答えなど 参考になります。

3. 喜怒哀楽のシーンが全体にちりばめられています。各シーンに感情がこもり、 それが言葉、表現に現れています。人に遠回しにものを頼むときの表現や、 怒った時の表現、ショックを受けた時の表現など、かなり参考になります。

4. これが重要だと思うのですが、テキストがあります。僕は初めはテープに 録音してウォークマンで聞いていました。何回も聞いてるうちに 「こういってたんか〜!」という発見とともに、どうしてもわからないところがありました。 そこをどうしても知りたいと思い、調べたところ、「le Diner de cons」の本(http://www.amazon.fr/exec/obidos/ASIN/2266072994/qid%3D1005857914/171-4088029-5956268) がありました。もともとこの話は演劇だったようで、 その本はその演劇の台本のようになっており、映画の中の会話がそのまま文章化されています。 演劇版と映画版とで多少の違いはありますが、 その本のおかげで僕はこの映画のセリフのほとんどを理解できるようになりました。

 以上が僕がこの映画を推薦する理由ですが、僕はこの映画で、 フランス語の尊敬表現とか婉曲表現とか、フランス語特有の表現を生で体験することが できたような気がします。日本に帰国したときも、この映画を見たのですが、 日本語の字幕は(文字数の制限のせいもあるのでしょうが)、かなりその 「フランス語特有の表現」が省かれており、残念に感じました。 短縮された日本語字幕を追っているうちに「(フランス語の)このいい方が面白いのに〜!」 と思っているうちに、やはりフランス語でないと伝わらないニュアンス、 日本語に翻訳不可能なニュアンスがあるように感じました。

 映画そのものはとても陽気な内容のものですから、普段のフランス語の勉強に疲れ た時とかに、ちょっと寄り道気分でこんなものに手を出してみるのもいいのではない でしょうか。