フォーサイト 2010年2月号 赤道ギニアクーデター未遂続報

当ブログの中で再三紹介している赤道ギアナの続報をフォーサイト2月号で発見した。
以前の記事で紹介した通り、この国はフレデリック・フォーサイスの『戦争の犬たち』という小説でモデルになった独裁国家である(第3冊目 『戦争の犬たち 上・下』 - YOSHIHISA YAMADA’s Blog / 山田義久Blog)。
繰り返しになるが、小説のアウトラインは、同国のプラチナ利権の奪取を目指したイギリスの大企業幹部が、数10人の精鋭傭兵を使ってクーデターを企て見事成功するが、事態は思わぬ展開に…という感じである。
面白いのは、そもそも10人そこそこで一国家を転覆させることは普通に考えて不可能なところ、疑心暗鬼に駆られた独裁者が大統領官邸に全ての権力装置を集中させてくれているので、そこだけしっかり叩けばその国は落ちる構図になっている点だ。
つまり、独裁者が独裁であるほど、少数クーデターの成功率が高まる、という逆説的な力学が働いているのだ。

小説が小説のまま終われば一つの面白い話で終わりなのだが、何と2004年に本当にこの少数クーデターが準備されて、実行寸前まで行った。実際に起きた事件を元にフィクションが生まれたのではなく、フィクションが現実の事件を起こすトリガーになった稀な例がこの話なのだ。ここまでは、当ブログで紹介してきたが、フォーサイトの記事はこの続きの展開を紹介している。

昨年11月に同クーデターの首謀者が釈放されたらしい。
彼の名は、サイモン・マン(Simon Mann)56歳である。
彼は、名門イートン校を卒業し、皇室にも近い軍隊に所属していた所謂"エリート"だった。
クーデター失敗後、彼は逮捕されたジンバブエの刑務所で4年近く過ごし、そして赤道ギアナの劣悪な刑務所に移送された。
そして、彼には懲役34年の刑が下されたが、出所の明らかでない40万ポンド(約5800万円)が赤道ギニア政府に支払われ、僅か14ヶ月で釈放となった。
イギリスに帰国後、彼はイギリス政府から沈黙を守ることを忠告されいるにも関わらず、既に自分の体験を小説と映画にすることを受諾したらしい。クーデターを引き受けたのも基本的に報酬目的と言っているので、彼は相当強欲なタイプらしい。

実は、マンの口よりこの事件の全貌が明らかになることを極度に恐れている人物がいるらしい。
それは、マーク・サッチャーだ。彼は名前の通り、元首相マーガレット・サッチャーの息子である。彼にはクーデターのスポンサーだった容疑がかかっているのだ(35万ポンド=約5000万円出資)。マンは、彼について、「スポンサーを越えて、首謀チームの一員」とまで評している。
彼は、クーデター事件の当時、南アフリカに住んでいて、既に2005年にクーデター計画に資金提供した容疑で起訴されている。しかし、母親である元首相が保釈金を複数回支払ったので、彼は国外退去処分を受け入れることで放免となった。
ただ、傲慢、尊大、冷酷、と悪評高い彼は、イギリスにもいられなくなり、今はスペイン南部のマラガ近くのエル・マドロナルという高級住宅街に引越している。ちなみにこの住宅街は犯罪暦のあるイギリス人富裕層のご用達らしい(どんなところだ!)。
そして、彼は赤道ギニア政府が裏の世界に手を回し、自分を暗殺または誘拐するのではないか、と自宅の警備を強化して息を潜めているらしい。
そりゃ、恐いわな。

フレデリック・フォーサイスの小説の余波が、ついにイギリス元首相の足元にまで広がった。まだ広がっていきそうなので、引き続き成り行きを注視したい。

ちなみに関連書籍としては、下記を見つけたが、まだマン自身の本は出ていないようだ。

The Wonga Coup: Simon Mann's Plot to Seize Oil Billions in Africa

The Wonga Coup: Simon Mann's Plot to Seize Oil Billions in Africa