フォーサイト休刊を考えて、早速復刊を願う

今月16日私にとって衝撃的なニュースがあった。国際政治経済情報誌『フォーサイトの休刊がそれだ。
私は大学入学前後の頃から購読しはじめたので、10年程の愛読者だ。当時私は留学していたので、海外で購読していた。推薦者は、現地で知り合い今も尊敬する外交官の方だ。「この雑誌を読んでおけば、日本と世界の大まかな流れは分かる」、「僕の話のネタの8割はここから」と言われ、バックナンバーを1年分ほどドサっと頂いた。様々な情報に飢えながらも、具体的に何を吸収してよいか分からない状態の若造には、最良の獲物だった。学生時代には本当に最初のページから最後のページまで読んでいた。
誌内の情報の質は高く、テーマも先見性に溢れていた。よって、例えばブッシュJr.元大統領やビン・ラディンの顔や人物像もそれぞれ大統領選挙、911テロのかなり前から知ることができた。
そして、帰国後社会人になってからも購読は継続し、今日に至るまで質の高い情報の提供を受けている。下で詳しく述べるが、フォーサイトの記事をきっかけに読んだ書籍も相当の数になる。よって、今回の休刊は本当に残念だ。

一方、このようにフォーサイトを愛し続けてきた故に、その変わっていく姿もそれなりに見てきたと思う。愛憎は表裏一体というが、悪い面も直視してきたつもりだ。率直に言って、以前と比べて読みたい記事が減っている。自分が社会人になり時間を取れないことを差し引いても、魅力ある記事数が減っているのは確実だと思う。
そこで、このエッセイでは、「一読者からの願い」として復活したフォーサイトにを改善してほしい点を述べていき、私からの早期復刊に対するエールとしたい。勿論、休刊撤回でもかまわない。

早速、魅力的な記事が減った理由だが、それは一言でいえば、「記事に人間の匂いがしなくなった」ことだ。別言すれば新聞記事のような記事が増えた。記事の客観性を保つためだろうが、その代わり無味乾燥な記事が増えた。
私が「フォーサイトのピーク」と考えている90年代後半から2000年代前半の記事には、独特の視点から社会現象を解釈し、大胆な仮説や毒舌を含んだ記事を書く人が多かった。その分記事はやや主観的だったかも知れないが、その主張のオリジナリティが印象に残り、考えさせられることが多かった。
それら筆者達は実務家であったり、また碩学の学者であったりするが、彼らの多くはフォーサイトの記事をきっかけにその人物像が注目を集め、フォーサイト卒業後も書籍の形で著作を連発することになり現在も活躍中だ。
私は、そんな彼らに敬意を表して勝手に「フォーサイト・ファミリー」と呼んでいる。
そして、最近のフォーサイトからはファミリーがあまり出ていない。それが、面白い記事が減った最大の原因と考えている。

今回、その「フォーサイト・ファミリーの名簿」を作成しようと思った。そのために、所有するバックナンバー、また97年3月号から、今月号まですべての目次、そして私の本棚を見直してみた。
そして、名前をリストアップしたところ、やはり90年代から2000年代初めまでの間にフォーサイトに登場し、その後も大体、書籍を出版してメッセージを発信し続けている。にも関わらず、大半の方がフォーサイトに戻ることがない…。今回は、その書籍達も合わせて紹介しよう。勿論、現在まで連載を続けている方等例外もいるが、大まかな流れとして私の主張は強ち外れていないように思えるのだがいかがだろう。
では、早速始めよう(敬称略)。

塩野七生
言わずとしてたローマ史の碩学だが、90年代後半に『ローマの街角から』という連載を持ち、時事問題についてもメッセージを発信されていた。連載時は塩野氏の代表作『ローマ人の物語』の執筆時期とも重なるので、本業の傍ら連載も続けておられていたことになる。

ローマ人の物語 (1) ローマは一日にして成らず

ローマ人の物語 (1) ローマは一日にして成らず

しかし、2000年を越えるにつれて徐々に登場が少なくなる。知名度が上がり過ぎて「ギャラも上がったのか?」とか要らぬ勘繰りをしてしまう。塩野氏は引き続き活発な出版活動を続けておられいるのだが、時事に対する見解を伺えないのは残念だ。
個人的な話だが、塩野氏の著作で『ローマ人の物語』以外には『コンスタンチノープルの陥落』が好きだ。
コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)

コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)

中西輝政
98年4月号『日本人よ、「戦後」にしがみつくなかれ』等、自身の歴史観に基づき社会全体を鳥瞰するような記事を不定期に発表されていた。一般的に保守論客と評される方だが、私にとっては、私が勝手に定義した「京都(を中心に活躍する)良識(的な)学派」(佐伯啓思(下述)、吉田和男、河合隼雄高坂正尭梅原猛佐和隆光梅棹忠夫日高敏隆、等)の一角を占める歴史の重鎮である。
少し昔の著作になるが、中西氏の『大英帝国衰亡史』は名作だと思う。特にアラビアのロレンスの記述は美しかった記憶がある。

大英帝国衰亡史

大英帝国衰亡史

その他、国家の衰亡を論じた『なぜ国家は衰亡するのか』も名作だ。
なぜ国家は衰亡するのか (PHP新書)

なぜ国家は衰亡するのか (PHP新書)

確か、中西氏の指導教授は高坂氏だったはずだが、その影響がこのあたりに垣間見れる。
文明が衰亡するとき (新潮選書)

文明が衰亡するとき (新潮選書)

さらに余談だが、私の「京都良識学派」の方々に興味を持たれている方は、その中の数人が共著で出版した『優雅なる衰退の世紀』も楽しめると思う。
優雅なる衰退の世紀

優雅なる衰退の世紀

この本は、京都らしさから来るのか、ブックカバーも美しいので本棚の色どおりに華を添えたい方にもお勧めだ。

佐伯啓思
01年5月号『提言・日本の再建世論迎合なき「改革」を目指せ』等、上述の中西氏と同じく、社会全体を鳥瞰し、現代をどう捉えるべきなのか指針を提示する記事を不定期に書かれていた。特に佐伯氏は西洋哲学の造詣が深く、しかも、難解な哲学思想をツールとして現代をどう解釈できるのか、分かりやすく語ることができる方だ。
私の読書生活は、実はこの佐伯氏の『「アメリカニズム」の終焉』に強い衝撃を受けた時に始まった。

「アメリカニズム」の終焉―シヴィック・リベラリズム精神の再発見へ

「アメリカニズム」の終焉―シヴィック・リベラリズム精神の再発見へ

経済思想を勉強し始めながら、その教科書上の知識にはまったく実用性を見出せなかった私が、この一冊により経済思想に開眼した。本書内で佐伯氏はその経済思想を用いて、今起こっている社会現象に次々と解釈を加えていく。まさに「大局観」とはこのことだと思った。
その後も佐伯氏が著作を出版される度に貪り読んでいたのだが、入り口としては下記2冊がよいかもしれない。興味を持たれた方々はさらに進んで下記のような本が面白いかもしれない。
貨幣・欲望・資本主義

貨幣・欲望・資本主義

国家についての考察

国家についての考察

ちなみに、中西氏、佐伯氏も含む、私が勝手に定義した京都良識学派の方々は、社会現象を語る時も文明レベルで語る方が多く、スケールが大きい点が魅力的だ。

寺島実朗
寺島氏は、現在、三井物産戦略研究所会長をしながら、多摩大学学長もされている方だ。佐伯氏や中西氏のようなで純粋な学者ではなく、実務家に近いポジションの方だが、『1900年への旅』等の歴史に関する連載は熱狂的なファンが多い気がする。私の親友もその一人だ。寺島氏の歴史記事の特徴は、当時の状況を詳細に描写し、その歴史的瞬間の状況を読者が彷彿することができることだ。
著作もたくさん出版されているが、フォーサイト上の連載をまとめた『20世紀から何を学ぶか』が代表的だろう。

ちなみに最近も新書を一冊出版されている。
世界を知る力 (PHP新書)

世界を知る力 (PHP新書)

田中明彦
最近では滅法登場が少なくなったが、以前は『国際論壇レビュー』という連載で、主要海外メディアの最近の論調をレポートされながら、『トニー・ブレアの「言葉による戦争」』(2000年11月号)等の素晴らしい論文を発表されていた。東京大学教授として国際政治をご専門にされ、現在も第一線で活躍されている。
著書も多数出版されているが、以前フォーサイト上でも展開されていた持論が纏められている著書『新しい「中世」』が印象的だ。冷戦後の世界秩序を考える際に示唆に富む内容だった。

新しい「中世」―21世紀の世界システム

新しい「中世」―21世紀の世界システム

その後も下記のような著作を上梓されている。

今北純一
今北氏は、ルノー公団、エアーリキッド社等フランス系の企業で幹部として活躍されながら、『ヨーロッパの風に聴け』、『絶対需要の法則』等の連載を通じて、自身の欧州ビジネスシーンにおける経験を素材に貴重な提言をされていた。そもそも欧州ビジネスの現場からメッセージを発信される方は稀であることに加え、その独特の視点は新鮮で、連載が終了した時はショックを受けたことを覚えている。
今北氏は、著書も定期的に出版されており、私の経験では隠れファンが多い。
その隠れファンの一人である私の知人は京都産業界の一線で働くビジネスウーマンだが、『交渉力』が座右の書と言われていた。

交渉力をつける (知のノウハウ)

交渉力をつける (知のノウハウ)

欧州ビジネス関連としては、下記2冊がある。
国際ビジネスの作法―欧米社会で仲間と認められる条件

国際ビジネスの作法―欧米社会で仲間と認められる条件

欧米・対決社会でのビジネス (現代教養文庫)

欧米・対決社会でのビジネス (現代教養文庫)

ミッション―いま、企業を救うカギはこれだ

ミッション―いま、企業を救うカギはこれだ

一方、私は羽生善治氏との対談本である著作も好きだ。
定跡からビジョンへ

定跡からビジョンへ

最近も色々著作を出版されているので、興味がある方はぜひ調べてみてほしい。

梅田望夫
梅田氏は、シリコンバレーベンチャー企業を育成するエンジェルをされている方であり、その経験を元に書かれた『シリコンバレーからの手紙』の連載は恐らくフォーサイトで一番人気の記事の一つであっただろう。ビジネス的に世界有数の激動地で何が起こっているのか、また、どんな人々が現地で働いているのかについてのレポートはいつも刺激的だった。梅田氏は、自分が見てきた前例のない現象を説明する際に、その現象を象徴するようなキャッチーな一言を探す能力に優れている。「Wisdom of Crowds」、「ネットのあちら側」等がそれだ。
数々の著作をお持ちだが、やはり一番有名なものは、『ウェブ進化論』だろう。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

インターネットとその周辺技術が我々の生活をどのように変えうるかについての大胆な提起は、学ぶことが多い。梅田氏の主張の魅力的な点は、「当たり障りがなくない」ことだ。それは、『ウェブ進化論』の出版後の賛同と批判双方の反響をの多さを見ればよく分かる。はっきり言って、当たり障りない主張は面白くないので今後も是非起こりうる新しい社会現象について大胆な仮説を提示してほしいと願っている。

ウェブ進化論』の後も精力的に出版活動をされており、特に変化に敏感な若年層は梅田氏より強いメッセージを受けている模様だ。

シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土 (ちくま文庫)

シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土 (ちくま文庫)

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

ウェブ人間論 (新潮新書)

ウェブ人間論 (新潮新書)

私塾のすすめ ─ここから創造が生まれる (ちくま新書)

私塾のすすめ ─ここから創造が生まれる (ちくま新書)

フューチャリスト宣言 (ちくま新書)

フューチャリスト宣言 (ちくま新書)

ちなみに私にとっては、なんと言っても『シリコンバレーから将棋を観る』を忘れることができない。

シリコンバレーから将棋を観る―羽生善治と現代

シリコンバレーから将棋を観る―羽生善治と現代

この本の翻訳プロジェクトをこのブログで展開しているからだ。このプロジェクトを通じて梅田氏ご本人とも個人的に連絡を取らせていただいているが、著作の行間から垣間見れる通り、誠実で優しい方だ。
思えば、梅田氏の存在を知ったのもフォーサイト上であり、ブログでこのような面白いプロジェクトを行う縁ができたのも、ある意味フォーサイトのおかげだ。それを考えると休刊になってしまうのは本当に惜しい。

ちなみに梅田氏は羽生善治氏と懇意にされているが、上述の通り今北氏も羽生氏と対談本を出している。羽生氏はフォーサイトファミリーにモテモテなのだ。

木村剛
『日本経済「常識に還れ」』を連載し、日本経済、経営のあるべき姿について提言を続けられていた。一方で、関連書籍も多数出版。その後、賛否両論はともかく、政府要職にも就いたことは有名だ。
書籍としては、まず事実を元に書かれた経済小説『通貨が堕落するとき』がある。

通貨が堕落するとき

通貨が堕落するとき

この中で、外資金融にカモにされる国内金融機関やインフレに陥った日本経済をリアルに描き出し、日本経済のあるべき将来像に小説という形で問題提起した。
その後、小説という形でなく論文という形で、しかし分かりやすい語り口で次々と書籍を出版する。木村氏は実務家であると同時に歴史にも造詣が深いので、社会の仕組みの原理原則から考えて「個人としてはどのようなアクションを起こすべきか」について包括的な提言ができる方だ。
日本資本主義の哲学―ニッポン・スタンダード

日本資本主義の哲学―ニッポン・スタンダード

この『日本資本主義の哲学』は、「資本主義制度とは何か」という基本的な考察や、ビジネス実務における会計・法律の重要性等、根本的な問題提起が多い。木村氏の見解に同意するか否かはともかく、文中の問題提起により、資本主義社会に生きる我々にとって最低限の造詣とは何か、考えるきっかけを得ることができる。
「会計戦略」の発想法

「会計戦略」の発想法

この『会計戦略の発想法』は、『日本資本主義の哲学』から会計に関する部分を別の一冊として拡張したものだ。資本主義社会における会計の重要性の詳細説明だけでなく、実際の会計実務詳細の説明(内部統制との関係等)もあり、会計に興味を持った人には絶好の啓蒙書と思われる。
戦略経営の発想法 ビジネスモデルは信用するな

戦略経営の発想法 ビジネスモデルは信用するな

この『戦略経営の発想法』は、経営を実務者の観点、特に経営者の視点から書いたものだ。よって、多くの現役経営者とのインタビュー内容が論考の中に織り込まれている。私はこの書籍の中でワタミ社長の渡邉美樹氏を知り、高杉良著『青年社長』を読んだのだが、内容は他で評されているのでさておくが、冒頭の女性(後の渡邉夫人)に対する手紙は、片思いに悩む青年必読だろう。
金融維新―日本振興銀行の挑戦

金融維新―日本振興銀行の挑戦

そして、『金融維新』は、木村氏が創立に中心的に関わった日本新興銀行について書いた本だ。その後、日本新興銀行は、予想もしていなかっただろう事件にも見舞われながら、引き続き奮闘が続いている模様だ。木村氏自身に興味を持たれた方には面白い本かも知れない。ちなみに私は超応援している。

成毛眞
個人的に成毛氏の連載『遊んで暮らそう』は、そのふざけたタイトルとは逆にフォーサイトの連載史上名作に入ると思う。この方は一言でいうと「ぶっ飛んだことを論理的に語ることができる方」である。毎回ゾクゾクするような刺激的で毒舌に溢れた記事が多く、連載当時はまずフォーサイトが届いたら、まずそのページを読んでいたことを思い出す。成毛氏はマイクロソフトの日本法人社長を退任後、インスパイアというプライベートエクイティを創業され活躍される一方、引き続きその毒舌は書籍、ブログ上で炸裂中だ。ちなみにフォーサイトが休刊になったこともブログ上で嘆いておられる(フォーサイトが休刊 - 成毛眞ブログ)。まったくの同感だ。ちなみに、そんな連載も今となっては、フォーサイトの会員専用データベースですら読むことができない。バックナンバーが手元にある人の特権になっているのだ。はっきり言ってフォーサイトのバックナンバーのデータベースは、超貧相だ。成毛氏の連載も含めて貴重な情報資源が紙媒体のみで保存されているなんて、この時代、遊休資産として放置されているに近い。もしかすると所有資産のバリュエーションすらできない人材しか新潮社にはいなくなったのかと疑ってしまう。
いずれにせよ、休刊にするのであれば、紙媒体のバックナンバーをグーグルに提供して、すべてスキャニングしてもらったらよいだろう。もし現在の連載中の船木氏の連載まで書籍化しないとかいったら、もはや新潮社をバイアウトするしかないだろう(笑。新潮社は非上場)。

閑話休題。成毛氏はその後『成毛式マーケッティング塾』という著作を上梓したが、これも滅法面白く、私は学生時代に深夜バスの中で読破してしまったことを覚えている。

成毛式・実践マーケティング塾

成毛式・実践マーケティング塾

成毛氏の魅力は、着眼点は斬新ながら、自説の説明は極めて論理的なのだ。私は「鋭い感性を持った論理家は、必ず常軌を逸した言動をする」という持論を持っているが、成毛氏はまさにその典型例だ。そして私もそうありたいと常日頃思っているため、成毛氏の活動からは極力フォローするように努めている。
ビジネス関連本としては、他に下記書籍がある。
マイクロソフトの本当の強さを語ろうか

マイクロソフトの本当の強さを語ろうか

この藤巻健史氏、松本大氏との対談本も極めて面白い。ちなみに成毛氏のバックボーンは、自身もそう言っておられるように、膨大な読書量だ。その読書について語った本もある。サブタイトルも過激で『本を読まない人はサルである』だ。これは一見過激な内容のように思えるが、読み手が本好きであればあるほど、軽快なタッチの文章の下に、成毛氏が読書の楽しさ、重要さを優しく啓蒙しようとする姿勢が垣間見れる。ある意味、眼光紙背に徹する楽しみも得ることができる一冊だ。尚、ブログ上で大量の書評をされているので、興味がある方は覗いていただきたい(成毛眞ブログ)。
ちなみに最近も人生観について語った本を出版された。保守的なお爺さん達を見ると逆に怒らしたくなるような人には最高に楽しめる本だ。
大人げない大人になれ!

大人げない大人になれ!

末永徹
この方は元ソロモンブラザーズのトレーダーの方で、松本大氏と同期入社だ。退社後は金融の現場とは一線を画し経済評論家として活動されている。その際にフォーサイト上に、下界から遮断された(失礼か?)自身の生活を題材に『ちょっと早すぎる東京隠遁生活』を連載されていた。現在の生活と、トレーダーとして一線で戦っていた際のエピソードとのの両方を盛り込みながら、独自の視点を有する文章を書かれていた。
末永氏は、その後も定期的に出版を続けられ、経済の仕組みを理解するために必要な基礎的知識の啓蒙に努められた。

日本が栄えても、日本人は幸福になれない

日本が栄えても、日本人は幸福になれない

戦争と経済と幸福と

戦争と経済と幸福と

しかし、やはり末永氏の著作の中で一番有名なものは、自身の経験を元に外資金融の実態を語った書『メイク・マネー』であろう。
メイク・マネー!―私は米国投資銀行のトレーダーだった

メイク・マネー!―私は米国投資銀行のトレーダーだった

さすがに内部にいた人でなければ書けないような記述も多く、1999年の出版以来、現在に至るまで依然引用される機会が多い本だ。
現在はフィールズという会社の取締役をされている模様だ。

須田慎一郎
98年8月号『外資"不良債権買い"の実態』等、主に金融を主題に公開情報の裏でどのような動きがあるのかについての記事を多くかかれていた。アンダーグラウンドの世界に関する記事も多く、野次馬的興味を引かれたことを記憶している。そして今に至るまで須田氏が発信する情報にはアンテナを張り巡らせている。
その後も須田氏は、関連テーマに関する書籍を多数出版されている。

ブラックマネー―「20兆円闇経済」が日本を蝕む

ブラックマネー―「20兆円闇経済」が日本を蝕む

「底なし」日本経済大不況

「底なし」日本経済大不況

下流喰い―消費者金融の実態 (ちくま新書)

下流喰い―消費者金融の実態 (ちくま新書)

ちなみに、ご本人を大阪の某番組のコメンテーターとして拝見したが、発信する情報の重さとは対象的に、とてもお茶目な方だ。

藤本隆宏
日本の製造業に関する研究で著名な経営学者で関連著作も多数出版されているが、私の直感だとその知名度が飛躍的に上がったのは2004年6月『メイド・イン・ジャパン進化論』等の記事を発表されてからと考えている。
やはり代表作はこの書籍だろう。

日本のもの造り哲学

日本のもの造り哲学

そして、本当につい最近新しい新書を出版された。引き続き目が離せない。
ものづくり経営学―製造業を超える生産思想 (光文社新書)

ものづくり経営学―製造業を超える生産思想 (光文社新書)

蒲島郁夫
この方は隠れフォーサイト・ファミリーと考えている。この方の記事(例:01年4月号『「反自民」を鮮明にし始めた無党派層』)を読んだ際、内容よりもまず、農協職員からハーバード大学留学を経て東京大学教授になったという異色の経歴に度肝を抜かれたことを記憶している。その後、知名度は全国区になり、今は熊本県知事を務めておられる。
実はまだご専門に関する書籍は拝読していないのだが、下記書籍は読了した。

逆境の中にこそ夢がある

逆境の中にこそ夢がある

渋澤健
国際的ファンドマネージャーとして、そして渋沢栄一の子孫として著名な方であり、フォーサイト誌上でも2003年1月号『「渋澤資本主義」の原点に戻れ』等の記事を書かれていた。この方もフォーサイト上での登場以来知名度が上がって行った気がしてならない。
代表的な著書はやはり『渋沢栄一ヘッジファンドにリスクマネジメントを学ぶ』だろう。渋澤氏は、グローバルな金融の一線で戦ってこられた方だが、一方で人としてのバランス感覚にも非常に優れた方で、ご発言はいつも含蓄がある。

渋沢栄一とヘッジファンドにリスクマネジメントを学ぶ

渋沢栄一とヘッジファンドにリスクマネジメントを学ぶ

その後も定期的に著作を上梓されている。
シブサワ・レター 日本再生への提言

シブサワ・レター 日本再生への提言

この他にも、リクルートから小学校校長に転じて活躍された藤原和博氏(連載『冗談ではないのだ』)、知識経営論と日本軍失敗の本質で有名な野中郁次郎氏、日本経済論と金融工学で著名な野口悠紀雄氏(2000年5月号『「経済工学」でリスクに挑め』)、狂牛病の研究で著名ながら、今やベストセラー作家の福岡伸一氏(07年9月号『まだ狂牛病禍は終わっていない』)、FACTA編集長の阿部重夫氏(連載『最後から二番目の真実』)、霞ヶ関埋蔵金の発掘者高橋洋一氏(08年1月号『「霞ヶ関埋蔵金」は間違いなく存在する』)、フリーランスジャーナリスト斉藤貴男氏、国際関係を専門とされる東京大学教授の山内昌之氏、特にイラクを専門とされる国際政治学者の酒井啓子氏、外交を専門とされる著名なジャーナリスト船橋洋一氏、海外勢もアルヴィン・トフラー氏、ポール・ケネディ氏、ピーター・タスカ氏等々…論争を巻き起こすオリジナリティ溢れる持論をフォーサイト上で展開されていた方は、枚挙に暇が無い。

リクルートという奇跡

リクルートという奇跡

味方をふやす技術―[よのなか]の歩き方〈3〉   ちくま文庫

味方をふやす技術―[よのなか]の歩き方〈3〉 ちくま文庫

知識創造企業

知識創造企業

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ

戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ

1940年体制―さらば戦時経済

1940年体制―さらば戦時経済

金融工学―ポートフォリオ選択と派生資産の経済分析

金融工学―ポートフォリオ選択と派生資産の経済分析

もう牛を食べても安心か (文春新書)

もう牛を食べても安心か (文春新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白

さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白

イスラームと国際政治―歴史から読む (岩波新書)

イスラームと国際政治―歴史から読む (岩波新書)

強いられる死 自殺者三万人超の実相

強いられる死 自殺者三万人超の実相

イラク 戦争と占領 (岩波新書)

イラク 戦争と占領 (岩波新書)

ザ・ペニンシュラ・クエスチョン―朝鮮半島第二次核危機

ザ・ペニンシュラ・クエスチョン―朝鮮半島第二次核危機

第三の波 (中公文庫 M 178-3)

第三の波 (中公文庫 M 178-3)

大国の興亡―1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争〈上巻〉

大国の興亡―1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争〈上巻〉

大国の興亡―1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争〈下巻〉

大国の興亡―1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争〈下巻〉

カミの震撼する日―2005年の日中米大衝突

カミの震撼する日―2005年の日中米大衝突

勿論、現在も活躍中のフォーサイトファミリーも沢山おられる。『インテリジェンス・ナウ』という非公開情報を題材に連載で活躍されている春名幹男氏、『メイドインジャパン進化論』という連載で世界的競争力を有する日本企業をレポートされ続けている船木春仁氏、中東の専門化である池内恵氏、宮田律氏、日本政治・外交史の専門家の東京大学教授であり、元日本政府国連代表部大使である北岡伸一氏、等、強力な執筆陣は健在だ。この方達は恐らくフォーサイトを卒業することになっても自身が活躍する場で引き続き強いメッセージを発信され続けるだろう。

時代がやっと追いついた  新常識をつくったビジネスの「異端者」たち

時代がやっと追いついた 新常識をつくったビジネスの「異端者」たち

中東 危機の震源を読む (新潮選書)

中東 危機の震源を読む (新潮選書)

中東 迷走の百年史 (新潮新書)

中東 迷走の百年史 (新潮新書)

国連の政治力学―日本はどこにいるのか (中公新書)

国連の政治力学―日本はどこにいるのか (中公新書)

余談だが、春名幹夫の著作『秘密のファイル-CIAの対日工作』が絶版になるのが早すぎると思わないだろうか。既に新潮文庫版も入手不可能だ。何か別の意思が働いていると勘ぐってしまう自分もいたりする。
秘密のファイル(上) CIAの対日工作

秘密のファイル(上) CIAの対日工作

秘密のファイル(下) CIAの対日工作

秘密のファイル(下) CIAの対日工作

長くなったがこのように、かつてフォーサイトには、大胆な仮説を提示したり、毒舌にまみれた記事を書く人が多くいた。そのような「フォーサイト・ファミリー」は、自説を武器に上記の素晴らしい著作を上梓されてきた。そして現在、そのような「あたり障りのなくない」人の数が誌上から減ってしまったことは揺ぎ無い事実と考える。

そもそも以前のフォーサイトは、人物のオリジナリティというか、個人が持つ能力に重点を置いた編集をしていたと思う。
通常の記事も「○○○○年のキーパーソン」や「People in focus」等、主題となっている事象のプレイヤーが誰なのか、またそのプレイヤーがどのような人生を歩み、どのような人物なのかについて重点を置いていたものが多かったように思う。
それを象徴する一冊の本がある。

次の10年に何が起こるか―夢の実現か、悪夢の到来か

次の10年に何が起こるか―夢の実現か、悪夢の到来か

これはフォーサイトが2000年を記念して出版した特集本だが、冒頭の塩野七生氏、スティーブ・ケース(元AOL社長)のインタビューをはじめ、「次の10年のキーパーソン」ということで、各界の著名人のプロフィールを数十人分紹介していた。私はこの本を通読後もしばらくは常に手元に置き、時事情報を収集する際、辞書代わりに使っていたことを覚えている。そして出版からまさに10年たった今、キーパーソンとされていた人々の命運も多岐に渡り、予想通り成功された方、凋落された方、逮捕された方、消息不明な方、等々バラエティに富み、興味深い(当ブログ上でも別の機会に細かく検証してみようと思う)。そういえば当時スティーブ・ケースはこの世の春を謳歌していた感があった。…当事の流行語「ニュー・エコノミー」の旗手だった。個人的には、是非復帰を望んでいる。
この書籍に満載されているような「人物単位の情報」が、現行のフォーサイトからほとんど消滅してしまった。復刊される際には、是非このような情報を満載する形式を復活してほしい。

最後にもう一つ、今回のフォーサイトの休刊を悲しんでいる方々は読書家に多い気がしている。多くの読書家達は、時事情報の収集のみでなく、次の読書の「獲物」をフォーサイト誌上に探していたはずだ。だから尚更、大胆な仮説や毒舌を論理的に語る人が多い紙面は魅力的だったのだ。
私も読書愛好家の一人としてフォーサイトの復刊を心から望んでいる。くどいが、勿論休刊撤回でも問題ない。